国境なき記者、タンタン

『タンタンの冒険』全24巻
原題《Les Aventures de Tintin》
エルジェ 作/川口 恵子 訳
福音館書店
はじめまして、元書店員のジャンマリーだ。このコラムではフランス語が原作の日本で刊行されている本を紹介する。少しでもフランスの書店を訪ねる気分を味わってもらえたら嬉しい。
日本を漫画の国だと言うならば、ベルギーはバンドデシネ(以下BD)の国とも言えるだろう。世界中で知られているキャラクターのタンタンがその代表だ。では、なぜフランス人がわざわざ他国のマンガを紹介するのか? 実は同じ仏語圏のフランスとベルギーは「BD franco-belge」(いわゆる「白仏BD」)の深い絆で結ばれている。相手国の出版社でBD作家が活躍したり、お互いのBDを読んだりするわけ。ぶっちゃけ、タンタンがフランスのBDと思い込んでいるフランス人も珍しくない。
隣の国でタンタンが馴染んだのは何となく想像がつくが、なぜ遠い日本でこれほど愛されているのだろう。まず、ジャポニズムの間接的な影響を受けた作者エルジェが描く「明確な線」(la ligneclaire)が、日本で受け入れられやすかったためではないか。例えば大正時代に書かれた『正チャンの冒険』(織田小星作・樺島勝一画)のシリーズ後期は国境なき記者、タンタンでは同じような描き方が見られ、これが好意的な土壌を作る一因となったのかもしれない。
それにタンタンの冒険の国際性も人気の鍵となった。勢いよく走り回る陽気なタンタンが危機から人々を救うという素朴な雰囲気を保ちつつ、作者が各国を明確に描写する。作者は外交関係でピリピリしていた国を物語で架空国に置き換え、現実味のある架空世界を描いていた。物語の表向きの単純さ、そして描写される国への細やかな配慮は絵柄と同様に「明確な線」の手法を取り入れて、物語を可能な限り解りやすくするためだった。外国に対して好奇心が強い日本人読者には、昔も今も心躍る物語に違いない。


